私たちが生活する上で欠かせないものをつくり、日々の暮らしを楽しくしてくれる環境を生み出す。それが、建設産業の仕事です。例えば、皆さんが通っている学校も建設産業の仕事によってつくられていますし、通学路の道路や橋もそのひとつ。とても身近なものを扱っているのに、なかなか知られていないのが建設産業です。
建設産業は、「土木」と「建築」の大きなふたつの業界に分けられます。また、それぞれの仕事を大きな観点から企画・計画を行う「コンサルタント」。
それぞれがどんな役割を果たすのかを、ご紹介していきます。
土木の仕事では、河川、道路・橋・港湾など、私たちが生活する上で欠かせない社会のインフラをつくっています。インフラは「つくったら終わり」ではなく、使い続けるために定期的な点検や補修が必要です。そうした維持・管理も土木の大切な仕事です。また、近年の異常気象はさまざまな自然災害を引き起こしています。そうしたなか、安全・便利に暮らすため、地域の守り手となって復旧を担うのも土木の大切な役割です。
道路や橋、トンネルやダムなど、日々の暮らしに欠かせない社会の基盤(インフラ)をつくるのが土木の仕事です。つくるだけでなく、維持や補修を行ったり、災害が起きたときの復旧にも関わったりします。
土木の仕事を知るために、トンネル工事のゲンバをフカボリします。
ゲンバへの一歩は安全対策から
土木のゲンバは、重機といわれる建設や運搬作業用の大型の機械が動いています。だから、安全対策は必須。トンネルの中には作業着に着替えて向かいます。
案内してくださるのは主任技術者の清水洋兵さん。作業着姿もバッチリ似合っています。今回は、このトンネル工事のために土木関係の会社が3社共同で工事を進めています。大きなものをつくる土木工事では、関連会社が共同して工事を行うJVという形も多いそうです。
4車線化に伴うトンネル工事が
進められています!
今回のゲンバはもともとある2車線の道路を、渋滞緩和などを目的に4車線化。そこで、新たに2車線を追加する道路工事の一環として、トンネル工事をしているそうです。完成時にはトンネルは全長421mになります。ちなみに天井までの高さは7m、道路の幅は10mもあります。トンネル内は声が響きますよ〜。
はじまりは、まず掘削工事から
掘削とは、山に穴を掘る工事のことです。ショベルカーのような重機で山を掘っていくのですが、途中で岩盤と呼ばれる硬い部分にいきあたることがあります。そこは、ドリルジャンボという特別な削孔機械を使って、まず小さな穴を開けます。そこに爆薬をつめて発破させ、崩していきます。無事に岩盤が崩れたら、大量の土砂をトラックに積み込んで運び出します。
- 一回の発破で1m50cmぐらいずつ掘削。この作業を少しずつ繰り返してちょっとずつ前へ!
トンネルのカタチを
整備していきます
穴がしっかり掘れたら、次はトンネルのカタチを造っていきます。鉄骨でできた支保工というものを、トンネルの丸いカタチにあわせて建て込んでいきます。その隙間をコンクリートで埋めてしっかり山の岩盤を補強していきます。
ロボットの乗り込み口みたいな
この物体は……
セントルという機械で、トンネルを仕上げる時のコンクリートを流し込む作業に使われます。
仕上げ前のトンネルを覆う
白い布の正体は!?
実は、これは防水シート。コンクリートの吹き付けの壁と仕上げの壁の間に設置します。穴を掘り進めると山から湧き水がでるので、トンネル内に水が溜まるのを防ぐためのものです。幅は2mのロール型のシートで、地面から天井までぐるっと一巻き。この防水シートを巻く仕事は、専門職の職人さんが手作業で行います。全長421mのシートを貼るのに1ヶ月ぐらいかかります。
車で通り過ぎると一瞬だけど、トンネルにはいろんな人の作業や思いがこもっているんだなぁ〜と経験できました。これからは、トンネルを通るときの気持ちが変わりますね。
- ゲンバ人
- 株式会社 鷹羽建設清水洋兵さん
3社でJVしているゲンバの主任を務める清水さん。トンネル完成までのおよそ2年間。このゲンバを仕切る方です。
- トンネルの長さや大きさは誰が決めるの?
- 建設コンサルタントという職種の方々です
トンネル工事の前に、建設コンサルタントという職種の方々が、プランや設計を担当します。まずは地盤を調べたり、測量をしたりして、トンネルの場所や長さをどうするか計画をしっかり練ります。その設計図をもとに、さまざまな土木職人が工事を進めていきます。
- トンネルを掘ったときにでる土砂の量は?
- およそ大型ダンプ
8000台分です
このトンネルを貫通させるのに出る土砂の量は、大型ダンプで8000台分程度あります。
- 土木工事に関わる
魅力とは? - 暮らしに役立つものをつくる喜びです
土木のゲンバは、そのゲンバごとの地域の特性があったり、その日の自然条件などによっても変化します。そんな環境の中で、たくさんの人達と関わりながら一つのものを完成させるところは魅力ですね。また、人の暮らしに役立つものをつくることに携われるのも嬉しいですね。大きなゲンバだけに、完成したときの喜びと達成感はひと際大きいです。
- トンネルを造るのに何人ぐらいの人が関わっているの?
- 主要作業員だけでも
約100名以上です
全長421mのトンネル工事現場内で作業している主要作業員は、入場者数だけでも100人を超えます。さらに運搬で携わるダンプトラック運転手や材料・機械関係者などを入れると、延べ人数7000人ほどが関わっています。
- これまでどんな土木工事に関わりましたか?
- 橋やダム工事など
大きなものを造っています
トンネル以外にも橋を造るゲンバも担当しました。また、ダム工事に付随した土木工事など、大きなものを造ることに関わっています。
トンネルが無事に貫通したときの石をいただきました。“貫き通す”という意味で、縁起物としてレアな記念品。トンネルの出口側に穴が開いて光が見えたときは、作業員の皆さんで万歳三唱で喜びを分かち合うそうです。
住宅やビル、商業施設など、私たちが生活する建物をつくるのが建築の仕事です。
工事の仕事は、細かく分かれていて
「基礎工事」「躯体工事」
「内・外装工事」「設備工事」
などがあり、それぞれの仕事を担う職人がいます。新たに建てるだけでなく、建物を長く使いつづけるために、メンテナンスやリフォームをすることも大切な仕事です。
私たちが住んでいる家や通っている学校、利用している病院や商業施設など、建物を造るのが建築の仕事です。土地を整えることから始まり、基礎を造り柱を組み立て、配管や電気などの設備を備えるなど、いろんな職人の技が集結してつくられます。
建築の仕事を知るために
天神ビッグバンの開発が進む福岡市中央区天神へ。完成すると19階建てになる予定の大型ビルへ潜入します。
案内してくださるのは、現場監督の津島団輝さん。天神の真ん中で建設中のこのビルは、完成後に商業施設やオフィスなどが入る予定の複合商業施設です。今回は、地上19階、地下4階になるこのビルのいろんなゲンバへ案内してもらいます。
ゲンバへの移動は
仮設エレベーターで!
それぞれのフロアには、工事期間中にだけ動いている仮設のエレベーターを利用して移動します。なんと工事中のビル内で全4台エレベーターが動いています。フロアで働く人達を乗せるだけでなく、工事の資材も乗せて運びます。建物が完成した後は、撤去されるそうです。
壁や床、窓も付いて
空間も見えてきた13階
この後、内装工事が進められます。
壁や窓もまだ付いていない19階
この最上階はホテルになる予定! このフロアが豪華なホテルになるとは!? 今はまだ想像もできません!
-
屋上階の
タワークレーンなんとこのゲンバの最上階に4台あっていろんなモノを引き上げているそうです。
地下鉄と繋がる予定の地下2階
ちょうど地下10mぐらいの深さにある地下2階!
昔の建物に使われていた壁を壊しながら工事中。この向こうにはすぐ地下街や地下鉄が。
建物を支えているのは鉄骨の柱!
工事が進みながらもゲンバはいつもクリーンに。
-
仮設の休憩所
職人さんたちが働きやすいような環境も整っていました!
● 基礎工事:建物の土台をしっかり造る
● とび:工事を進めるための足場を造る
●鉄骨工:鉄骨と呼ばれる鋼材で建物の梁や柱を組み立てる
●鉄筋工:コンクリートで床や壁を造る前に鉄筋で補強
●型枠大工:コンクリートを流し込むための型枠を造る
この他、建物内部の仕上げや、外壁、防水など建物外部の仕上げ、各種設備の設置など、多種多様な職人が働いています!
工事の仕事は厳しそう! 最初はそう思っていましたが、今日丸一日ゲンバをまわってみて、みんながやって来るビルを造る職人さんたちは正直“カッコいい”し、達成感を感じられる仕事だと思いました。
- ゲンバ人
- 株式会社 松本組津島団輝さん
建物を図面通りにつくるために、いろんな職人を集めて指示を出す現場監督の津島さん。職人さんたちをやさしい笑顔で仕切ってます。
- 現場監督はゲンバで
どんな役割? - ゲンバのまとめ役です
現場監督は、建築工事の全体のスケジュールを組んで、その中でそれぞれのタイミングで職人さんを集めて、工事の指示を出していきます。ゲンバのまとめ役です。
- 19階建てのビルをつくるのに何人ぐらい関わっているの?
- 現時点で延べ49万人が!!
※2023年11月時点
今日の取材時点(2023年11月)までに延べ49万人の人が関わっています。毎日500人〜600人の職人さんたちがやってきて工事を担当してくれています。
- 建築工事の魅力は?
- 完成したときの達成感です
長い年月がかかるので、いろんな苦労はありますが、完成した時はやはり達成感がありますね。引き渡しをしたお客様が、喜んでくれる時が一番うれしいですね。
- このビルをつくるのに
どれぐらいの期間が
かかりますか? - 約5年かかります
今回の工事は、以前建っていた建物を壊すところから始まっています。なので、壊す時から考えると建物が完成するまでに約5年かかります。
- 工事はどんな風に
進んでいるの? - 同時に地上と地下で
進んでいます
この建物は地下4階まであります。一旦、基礎を固めて、鉄骨を立てると上階に向けてどんどん進んでいきますが、実は同時に地下の工事も進んでいます。
13階の鉄骨の柱に、記念に名前を描かせてもらいました!完成時には、内装で隠れてしまうので見えませんが、しっかり足跡を残してきました。
道路やビルなどの構造物をつくるには、まず土地を調査したり、どんな人が利用するのかの調査・計画が必要です。また、敷地をどう使うか、建物の安全な構造を考えたり、全体の建設コストをどれくらいにするかの計画も欠かせません。さらに、景観を守ることや、その後の維持・管理も考えなくてはいけません。こうした様々な企画や戦略をたてるのがコンサルタントの役割です。土木では主に「建設コンサルタント」、建築では主に「建築士」がその役割を担います。その他、地形を計測する「測量業」、地盤を調査する「地質調査業」などもここではコンサルタントの仕事として紹介しています。
建設コンサルタントの仕事とは?
一言で表すと、「まだ、そこにないものをつくりだす」仕事です。計画をたてる前の方針をたてたり、調査を行ったりします。
例えば、駅前の整備をするようなプロジェクトであれば、どんな計画にするのかを決めるために、まずはまちのポテンシャルを調査したり、条件を整理したりします。
橋や道路などまちのインフラに関わるような仕事もありますし、高速道路の改善に関わるような建設プロジェクトもあります。大型のプロジェクトが多いため、国交省や自治体、高速道路を運用するNEXCOなどの公共機関からの発注が多くなります。
しかし、その向こう側には、その場所やその施設を使う人がいます。その方々にとっての快適な使い心地を考えることが、欠かせない仕事です。形になって完成するまでにはかなり時間かかりますが、その企画の最初に携われるのは喜びです。
- 大きなプロジェクトが多いのでチームで取り組むことが多いです。
- 難しい工程も多いので、法規のチェックも欠かせません。
西村さんの仕事をフカボリ
大学では理工学部を専攻していました。当時、自転車が好きで、サイクルショップでアルバイトもしていたんですが、学内のプロジェクトで自転車に関する社会実験に参加することがありました。その時、プロジェクトを大学と一緒に進めていたのが建設コンサルタントの会社の方々でした。それがきっかけで、まちをつくる仕事に関わりたいと思い、建設コンサルタントの道を志しました。
建築士の仕事とは?
「建物をつくりたい」というお客様(施主)がいる時に、まずプランを練って図面に描くのが建築士の仕事です。
建築士の仕事は、大きく「設計」と「工事監理」の2段階に分かれています。設計が、建物の具体的なイメージを図面に描くことで、実際に工事が始まった後はゲンバでの監理も行います。最初から最後まで建物に寄り添う仕事です。
ファーストプレゼンはスケッチから始まるケースも多くあります。図面や模型を使ってイメージを固める他、最近ではBIM(ビム)と言われる建築専用の3次元図面などでも施主とイメージを共有することも多くなりました。
設計は「人を幸せにする仕事」でもあります。設計にかかる予算は高額ですし、その分、大きな思いを託されているので責任も重くなります。しかし、考え抜いた設計が完成し、皆さんに幸せを感じてもらえる価値ある仕事です。
意匠設計は、建築の外観や内部のデザインを担当します。また、多くのケースで建築設計全体のプロデュースも務めます。
構造設計は、様々な荷重に耐えられるように建物の土台や骨組みの構造を設計します。建築の安全性能を高める仕事です。
設備設計は、建物の環境、エネルギーを最適化して快適な室内環境を設計します。環境負荷軽減のため省エネルギー化することも重要です。
- まずは手書きスケッチでイメージ。
- より空間イメージを伝わりやすくする3次元でイメージを伝えるBIMソフトを使うことも。
松山さんの考える
建築の仕事をフカボリ
設計はデザイン力だけではなく、多岐に渡る能力が求められる仕事です。学生時代にデザインで高い評価を得られても、実際のゲンバでは、むしろ人間性とやる気がいろんな問題突破に繋がることもあります。才能ではなく、大切なのはいかに考えられるか。考えることを辞めないことが、建築の発想力に繋がるはずです。自分の可能性を止めることなく、チャレンジしてみてください。